大阪に十数年住んでいながら、実はちゃんと駅伝を生で観たことがなかった。テレビ中継を横目に「すごいなあ」と他人事のように眺めるだけ。そんな私が「これは絶対に現地で観なければ」と思ったのが、去年春に初めて開催されたエキスポ駅伝だった。
1970年の大阪万博が開かれた万博記念公園から、2025年の万博会場である夢洲まで。55年の時をタスキでつなぐというコンセプトに惹かれたのもあるし、何より「実業団と大学生がガチンコで勝負する」という駅伝史上初の試みに胸が躍った。ニューイヤー駅伝のトップ選手と、箱根駅伝で名を馳せた大学のエースたちが同じコースで競うなんて、駅伝ファンならずとも気になってしまう。
万博記念公園の太陽の塔を見上げながらスタートを待つあの高揚感は、正直テレビでは味わえないものだった。
実際に沿道で観戦してわかったこと
スタート地点の万博記念公園は、朝早くからたくさんの観客で賑わっていた。小雨がぱらつくあいにくの空模様だったけれど、みんな傘をさしながらもワクワクした表情を隠せない。私が陣取ったのは東の広場のほど近く。選手たちの緊張した横顔がはっきり見える距離で、心臓の音まで聞こえてきそうな錯覚に陥った。
号砲と同時に飛び出していく選手たち。トヨタ自動車の吉居大和選手、青山学院大の鶴川正也選手、駒澤大の伊藤蒼唯選手が先頭集団を形成する。スタート直後だからまだ余裕があるのかと思いきや、すでに鬼気迫る表情だ。実業団の選手はやはり体の厚みが違う。大学生も線は細いけれど、その分しなやかさがあって、走りの質の違いを目の当たりにできたのは大きな収穫だった。
第1区の終盤、残り1kmを切ったあたりで吉居選手がスパートをかけた。ほんの数秒の差でタスキを渡す。わずか4秒のリード。これが後々、大きな意味を持つことになるとは、そのときはまだ知る由もなかった。
驚いたのは第3区の新御堂筋だ。普段は車しか走れない自動車専用道路の本線を、選手たちが駆け抜けていく。普段あの道を自分の足で走ることなんて絶対にできないわけで、沿道から見ていても「え、マジで車道走ってる!」と声をあげてしまった。一緒に観ていた友人も「これはレアやわ」とスマホで必死に写真を撮っていた。トヨタ自動車の太田智樹選手がこの区間で区間賞を獲得し、後続との差を一気に広げた。パリ五輪代表の走りはやはり次元が違う。上下動がほとんどなくて、まるで氷の上を滑っているみたいだった。
大阪城公園から御堂筋、道頓堀へと続く第5区は、大阪のド真ん中を走り抜ける。グリコの看板を背に走る選手たちの姿は、大阪人として妙に誇らしかった。外国人観光客が「ナニコレ?」みたいな顔で立ち止まっているのも面白い光景だった。
最終7区、夢洲へ向かう夢舞大橋のアップダウンは選手たちにとって本当にきつそうだった。フィニッシュ地点の万博会場前では、すでにトヨタ自動車の優勝が確実視されていたけれど、それでも大学生チームの國學院大學が3位に食い込む大健闘を見せて、会場は大いに沸いた。
ボランティア参加で見えた舞台裏
実は私、観戦だけでは飽き足らず、翌年に向けて何かできないかと考えて、ボランティア応募の情報を調べたりもした。実際に参加された方の話を聞く機会があり、その生の声がとても参考になったので紹介したい。
沿道整理のボランティアをされた方は、大阪マラソンのボランティア仲間と5人以上のグループで応募したそうだ。中継所の交差点で選手を誘導する役割だったらしく、「選手が間違った方向に行かないようにするのが一番の責任。目の前をトップ選手が通過するのに、じっくり見られないのがもどかしかった」と笑っていた。それでも、「自分が支える側に回ることで、ふだん当たり前に参加している市民マラソンのありがたみが骨身に染みた」と話していたのが印象的だった。
ほかにも、活動後にボランティア仲間と中之島のハンバーグ店で打ち上げをした話を聞いて、そんな楽しみ方もあるんだなあと感心した。駅伝を真ん中に置いたコミュニティの広がりは、単なるスポーツ観戦を超えた魅力だと感じる。
エキスポ駅伝、ここが惜しかった
もちろん、良いところばかりではなかった。初回開催ということもあり、いくつか気になった点を正直に書いておく。
まず、出場チームの辞退が相次いだことだ。旭化成とKaoの2チームがコンディション不良で出場を取りやめた。ニューイヤー駅伝を制したばかりの旭化成が出ないと知ったときは、やはり寂しかった。3月という時期が実業団にとって選手を揃えにくいのだろう。トラックシーズンに向けた調整と重なってしまうのも無理はない。HONDAもそもそもエントリーしていなかったし、実業団側の本気度という意味ではやや物足りなさを感じたのも事実だ。
それと、沿道の観戦環境はもう少し改善の余地がある。特に夢洲周辺は交通の便が限られていて、帰りの混雑はなかなか大変だった。せっかくの大舞台なのだから、シャトルバスの増便など運営面のブラッシュアップに期待したい。
どんな人におすすめか
エキスポ駅伝は、正直なところ「駅伝マニア」よりも「大阪の街が好きな人」「万博に興味がある人」にこそ刺さる大会だと思う。もちろんガチの駅伝ファンも楽しめるけれど、観光気分でふらっと立ち寄れる気軽さが最大の魅力だからだ。
たとえば御堂筋や道頓堀といった観光スポットをめぐりながら、ついでに駅伝も観られる。大阪に遊びに来たついでに数区間だけでも沿道に立つ、そんな楽しみ方ができるのはこの大会ならではだろう。
あとは、大学生と実業団の対決という構図にロマンを感じる人。学生最後のレースになる4年生と、家族を背負って走る実業団選手。同じタスキをつなぐにしても、背負っているものの重さが違う。その違いが走りに出る瞬間を、私は第3区の太田選手に見た気がする。
観戦前に知っておきたい注意点
最後に、これから観戦を考えている人に伝えておきたいことをまとめておく。
まず、3月の大阪はまだ肌寒い。私はヒートテックにウインドブレーカーでちょうどよかったけれど、雨が降ると体感温度は一気に下がる。折りたたみ傘やレインコートは必須だ。去年は小雨程度で済んだけれど、本降りになったら観戦どころではなくなる。カイロもあると安心。
それから、コース全区間を追いかけるのは現実的ではないと割り切ったほうがいい。夢洲は行きにくいので、地下鉄でアクセスしやすい御堂筋エリアを拠点にするのがおすすめだ。選手が通過するまでの待ち時間を利用して、周辺のカフェで温まりながら待つのも賢い作戦だと思う。
あとは、2026年以降の開催がまだ正式に発表されていない点についても知っておいてほしい。大阪・関西万博は2025年10月に閉幕するため、万博記念の名を冠したこの駅伝が来年も開かれるかどうかは不透明なのだ。ただ、2026年2月には万博記念公園を舞台にした「エキスポリレーマラソン」という関連イベントがすでに開催されている。駅伝とは形態が異なるものの、タスキをつなぐ文化自体は続いている。本家のエキスポ駅伝についても、復活を願う声は少なくないし、私自身もぜひまた現地で観たいと思っている。
あの日、夢洲にゴールした選手たちの晴れやかな顔と、雨上がりの空に浮かんだ薄日を思い出す。スポーツには、街の空気を一変させる力がある。初めてのエキスポ駅伝は、そのことをまっすぐに教えてくれる大会だった。もし来年も開催されるなら、今度はボランティアとして関わってみたい。走る人と応援する人と支える人。そのすべてが混ざり合う場所に、もう一度立ちたいと思う。




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