ついに出た!7回の左中間スタンドに突き刺さった確信の6号
これ以上ない、という瞬間がまさにそこにあった。
7回、先頭打者として打席に立った大谷翔平の表情を、テレビ越しに見て少しだけ鳥肌が立ったのを覚えている。カブスの2番手、左腕ミルナーが投じた初球、外角低め146キロのシンカー。それを大谷は体をしならせるように回転させると、バットの先で拾うのではなく、芯で完璧に捉えた。打球は美しい放物線を描き、逆方向の左中間スタンド最前列へ吸い込まれていった。
打った瞬間、大谷はバットを放り投げるでもなく、ただ静かに一歩、二歩と歩き出した。あの「確信歩き」だ。僕が特に痺れたのは、一塁を回る瞬間だった。右翼を守るカブス・鈴木誠也の方をちらりと見て、右手をひょいと斜め上に突き上げた。まるで、長い眠りから覚めた合図を盟友に送るかのように。60打席ぶりのアーチに、本拠地ドジャー・スタジアムのボルテージはこの日一番の最高潮に達した。
スタジアムの大画面に表示されたデータを見て、さらに驚いた。打球速度は約176.7キロ(109.8マイル)、飛距離は約116.4メートル(382フィート)。凡退が続いていたとは到底思えない、圧倒的な数字だった。現地の実況が「彼はドジャースのユニフォームに袖を通してから、これほど長くホームランから遠ざかったことはなかったんだ!」と絶叫していたのが、すべてを物語っていた。
「らしさ」全開だった各打席の振り返り
この日の大谷は、ホームランだけじゃなかった。全ての打席に、「復調」という二文字ではない、元々の「才能」を感じさせる力強さがあった。
まず1回の第1打席だ。相手は同学年の今永昇太。この日、今永は立ち上がりから制球に苦しんでいたが、大谷に対してもフルカウントからの6球目、外角低めに外れるスライダーを冷静に見極めて四球を選んだ。ここで終わらないのが大谷だ。続くテオスカー・ヘルナンデスの打席で、易々と二塁への盗塁を決めてみせる。この機動力が先制点に繋がったのだから、チームにとってどれほど価値のある四球だったか分かる。
2回の第2打席は、外角のスイーパーを逆らわずにライトへポトリと落とす技ありの安打。そして、僕が今日一番の当たりだと思っているのが、5回の第3打席だ。これまた違った角度で今永の球を弾き返すと、打球はあっという間に右翼線を破った。表示された打球速度は175.1キロ(108.8マイル)。あれはもう、ライトの鈴木誠也でさえ追いつくことを諦めるしかない「爆速二塁打」だった。この一打を見て、僕は「ああ、トンネルは完全に抜けたな」と確信した。二塁ベース上でのやんちゃな笑顔も、調子が上向いている証拠だった。
「構えが全ての始まり」本人が語った復調の鍵
試合後、スマホをずっと握りしめて大谷のインタビュー動画が上がるのを待っていた。動画の中の大谷は、いつもより少しだけ安堵したような表情で「昨日あたりからちょっとずつ良くなっている感じはあった。自分の中では構えが一番大事なので」と話していた。技術的な解説は決して多くない人だけど、ああやってハッキリと「構え」という具体的なワードを口にした時は、本当に核心を掴んだんだなと思う。
解説を務めていたノマー・ガルシアパーラも、試合中に面白いことを言っていた。「彼があれほど力強く逆方向へ打球を弾き返せる時は、間違いなくベストな状態にある証拠だ」と。直近7試合で打率.179と苦しみ、試合前時点で.240まで落ち込んでいた数字が、この日の3安打猛打賞で一気に.262まで跳ね上がった。たった1試合でこれだけ引き上げられるのが、この選手のとんでもないところだ。対戦した今永も「失投を逃さない、素晴らしい打者だなと改めて感じた」と脱帽していた。
鈴木誠也との「バーン」騒動、球場が笑顔に包まれた瞬間
この日のハイライトを語る上で、5回の二塁打の後のシーンは絶対に外せない。二塁ベース上に立った大谷は、不意に右翼を守る鈴木誠也のほうを向いて、例の「バーン」ポーズを決めた。しかし誠也はプイッと顔を背けて無視。普通ならここで恥ずかしくなってやめそうなものだが、大谷はめげない。もう一度、今度は右手を思いっきり広げて「バーン!」と合図を送り直した。
堪えきれなくなったのか、鈴木誠也が帽子のつばをちょっと上げて思わず笑顔を見せる。その瞬間、球場全体からは試合の緊迫感とは違う、ほっこりとした大きな笑い声と拍手が起こった。この日、鈴木誠也は4打数無安打と完璧に抑え込まれていたから、悔しさもあったと思う。それでも、こんな風に戦っている最中に友情を見せられると、見ているこっちの頬も緩んでしまう。メジャーの舞台でこれができる二人が、本当に誇らしい。
通算300号とサイクル安打。止まらない夢への期待
メジャー通算286本目となるこの一発で、誰もが意識する通算300本塁打まで、残り14本となった。あと一歩、という距離ではないけれど、今季中の達成が十分に現実的な数字だ。考えてみればこの日、7回の時点で単打、二塁打、本塁打。あとは三塁打が出ればサイクル安打達成というシチュエーションだった。結局それは実現しなかったものの、夢を見させてくれるには十分すぎる内容だった。
ドジャースはここから10日間の長いロードに出る。そして週末、26日のカブス戦では佐々木朗希が先発予定で、直接対決が実現するかもしれないという。60打席ぶりのアーチという「終わり」は、次なる伝説の「始まり」でしかない。大谷翔平が次にどんな手で僕たちを驚かせてくれるのか、しばらくは眠れない夜が続きそうだ。



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