東京マラソンを走った。あの大都会のど真ん中を、車の代わりにランナーが埋め尽くす非日常。紙吹雪が舞うスタートの高揚感から、浅草の雷門をくぐり抜ける興奮、そして東京駅前のゴールで涙が止まらなくなった瞬間まで、すべてが鮮明に焼きついている。でも、そこにたどり着くまでは決して楽な道のりじゃなかった。抽選に落ち続けた日々、準備での失敗、レース中の想定外。この記事では、私自身の体験を包み隠さず書きながら、これから東京マラソンを目指す人の疑問や不安を一つひとつ解きほぐしていく。
なぜ東京マラソンはこんなに特別なのか
私はこれまでに地方の市民マラソンを十数本走ってきたが、東京マラソンは別格だった。まずスタート前の雰囲気からしてまるで外国のレースに紛れ込んだみたいで、周囲を見渡すと体感4割は海外からの参加者。ゼッケンには様々な国の言語が飛び交い、コスプレランナーも多く、都庁前の高層ビル群をバックにした光景はまさに「東京」を感じさせる。沿道の応援もとにかく桁違いで、42.195キロのほぼ全区間にわたって人の壁が切れない。知らない人から何度も名前を呼ばれ、ハイタッチを求められ、太鼓やダンス、生演奏まで飛び出すお祭り騒ぎだ。走り終えた今も、あの熱狂を思い出すと胸がじんわり熱くなる。
抽選倍率10倍以上の壁をどう突破するか
東京マラソンの最大の難関は、走ることよりもまず「出走権を手に入れること」だ。私は過去4年間で6回目の出走となるが、実は一般抽選で当選したことは一度もない。最初の年は何も知らずに一般エントリーだけしてあっさり落選。周囲のランナー仲間に聞くと「あれは倍率10倍以上が当たり前だよ」と笑われた。たしかに公式発表こそないが、体感では12倍程度と言われており、運任せだけではほぼ当たらないと思っていい。
ではなぜ私が毎年のように走れているかというと、一般抽選以外のルートを徹底的に活用したからだ。まず「ONE TOKYOプレミアムメンバー」への入会。年会費はかかるが、先行エントリー枠が用意されており、ここでの当選確率は一般よりやや高いと実感している。実際、私はこの枠で2回拾った。次に「チャリティランナー」制度。10万円以上の寄付が条件で、寄付先のNPOを選べる社会貢献型の参加方法だ。寄付金とは別に参加費19,800円も必要で、決して安くはない。だが、自分の走りが誰かの役に立つという実感は、レース中の大きな力になった。
ほかにも都民枠や旅行代理店ツアー枠、連続落選者向けの救済枠「準エリート」など、実に8つもの参加ルートが存在する。最初は「抽選に申し込むだけ」だった私が、次第に情報を集め、複数のルートに同時にエントリーするようになってから、出場のチャンスは格段に広がった。どうしても東京を走りたいなら、運だけに頼らない戦略的なアプローチが欠かせない。
EXPOと前日までの過ごし方で失敗しないために
東京マラソンのスタート3日前、私は金曜日に有給をとって朝一番でビッグサイトのEXPOに向かった。初めて参加した年、土曜日の昼過ぎに行って大混雑に巻き込まれ、公式グッズがほぼ売り切れていた苦い経験があるからだ。最近は事前予約制が導入されスムーズになったが、それでも狙いのウェアやアクセサリーは早い者勝ち。今回は開場30分後に到着し、ゆったりと買い物ができた。
前日の宿は水道橋に確保した。スタート地点の都庁までは電車ですぐだし、ゴール後もホテルに戻って着替えて帰れる距離感が絶妙。夕食はJR水道橋駅近くのうなぎ屋でうな重をテイクアウト。脂っこいものは避けたいが、炭水化物と良質なタンパク質をしっかり摂りたかった。値段もリーズナブルで、気持ちも満たされて最高のカーボローディングになった。
夜は21時には床についたが、気持ちが高ぶってなかなか寝つけなかった。それでも最低6時間は横になるだけで疲労回復になると自分に言い聞かせ、目を閉じた。
レース当日、スタートまでのリアルスケジュール
午前5時に起床。まずおにぎり1個と経口補水液、ビタミン剤を流し込んだ。胃腸が弱いので、前日のうな重が少し重たく感じたが、そこは気合でカバーする。5時半、温冷交代浴。熱いシャワーと冷水を交互に浴びて、眠っていた筋肉を無理やり起こす。このルーティンは数年前から続けていて、スタート直後のだるさが格段に減った。
日焼け止めを顔と首に、ワセリンをわきの下と太ももの内側にたっぷり塗り込んだあと、乳首には絆創膏。長年のランニングで痛い目を見てきたから、摩擦対策だけは絶対に手を抜かない。補給食はAMINO SAURUS GELを4本と塩ジェルを2本用意し、5キロ、15キロ、25キロ、32キロ地点で摂取するイメージを頭に叩き込んだ。すべてをランニングポーチとショーツのポケットに分配し、ウェアはお気に入りのSAURUSのタンクトップ、シューズはPumaのディヴィエイトニトロエリート3。このシューズは反発が強く、後半の粘りに直結するから信頼している。
7時50分に会場着。着替えの手間を省くため、ウェアの上にフリースとウインドブレーカーを重ね着し、会場ではそれを脱いで捨てる作戦だ。手荷物を預ける列で少し待ったものの、トイレは比較的空いている場所を見つけられてラッキーだった。8時10分にCブロックに整列。1時間前から並んだおかげでBブロックすぐ後ろの好位置を確保でき、スタートゲートまではっきり見渡せる。この「早め整列」は地味に効く。後方だと号砲からスタートラインを越えるまでに数分かかり、タイムロスになるだけでなく渋滞のストレスも半端ない。
号砲、そして怒涛の42.195キロ
9時10分、号砲。世界的ギタリストのマーティ・フリードマンがゲート横で生演奏を披露していて、その迫力に背中を押されるように走り出した。最初の5キロはやや下り基調で、気を抜くとペースが上がりすぎる。前年出場した別大マラソンで前半飛ばしすぎて30キロで撃沈した教訓から、今回はイーブンペースを徹底した。「キロ4分40秒」と決めて、時計と睨めっこ。周囲の速いランナーに惑わされず、自分のリズムを刻む。
5キロの給水では塩ジェルを投入。暑さ対策として早めに塩分を補給しておくと、後半の痙攣リスクが下がる。10キロを過ぎて日本橋、そして浅草へ。雷門を正面に見ながら駆け抜ける瞬間、沿道の応援が爆発的に大きくなる。外国人の観光客も手を振ってくれて、まるで自分が主役になったような錯覚を覚える。ハーフを1時間40分11秒で通過。予定通りのペースにほっとしつつも、ここからが本当のマラソンだ。
25キロすぎ、門前仲町の折り返しで脚に少し疲れが見え始めた。ここで2本目のジェルを補給。32キロ地点では、私が最も苦手とする「壁」が来るかと身構えたが、沿道の「ファイト!」の声と太鼓のリズムに助けられ、不思議と失速しなかった。むしろ、銀座の目抜き通りを走る高揚感が、痛む脚を前に進ませた。
ゴールの先に見えたもの
日比谷を抜け、残り1キロ。行幸通りのゴールゲートが見えた瞬間、涙が込み上げてきた。練習で走り込んだ夜、仕事の合間に捻出した時間、家族の理解、落選続きだった無念さ。すべてが頭をよぎり、感情があふれた。フィニッシュタイムは3時間18分52秒。自己ベストには届かなかったが、これ以上ないくらい満足できる走りだった。
ゴール後はメダルをかけてもらい、フィニッシャータオルを受け取り、ボランティアの笑顔にまた泣きそうになった。荷物受け取りはスムーズで、水道橋のホテルに戻ってシャワーを浴びたのち、近くの居酒屋で打ち上げ。走り終えた体に染みるビールの味は、何物にも代えがたい。
東京マラソンは誰に向いているのか、注意点は何か
初心者でも十分楽しめる大会だが、制限時間が6時間30分に短縮されている点には注意が必要だ。関門閉鎖時刻が区間ごとに厳密に設定されており、極端にゆっくり走ると収容バス行きになる。レース中「もう少しだけペースを落としたい」と思っても、関門に追われる焦りがあると精神的にきつい。実際、私の友人は35キロ関門にわずか数十秒及ばず涙をのんだ。
また、大規模大会ならではの渋滞も初心者にはストレスかもしれない。特に後方ブロックでは号砲からスタートラインまで5分以上かかることもあり、走り出すまでに体が冷えてしまう。早めにブロックへ入り、保温のための使い捨てカイロや不要な上着を持っておくことを強くおすすめする。
東京マラソンはエリートランナーからファンランナーまで、誰もが主役になれる夢舞台だ。ただ、その夢を叶えるには「抽選だけ」ではなく、複数の参加ルートを調べ尽くし、戦略的に準備を進めることが近道。費用的にも安くはないが、一生の思い出を作る価値は十分にある。都心を駆け抜ける至高の体験を、ぜひあなたの脚で味わってほしい。





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